そろばんの効果は本当にある?研究と実感
習わせる前に「本当に効くの?」を確かめたい方へ。言えないことも正直に書きます。
効果はある。ただし強いのは「計算の速さと正確さ」と「数の記憶」で、「頭が良くなる」は言い過ぎ。 5〜7歳の子ども 183人を 3年間追った無作為比較試験では、そろばん式暗算を習った子は計算のテストで対照群を上回った。脳の画像研究では、熟達者は暗算のときに言葉の領域ではなく視空間の領域を使っている。
研究で分かっていること
- 計算力が上がる(無作為比較試験)。インドの小学校で 5〜7歳の子ども 183人を無作為に 2つに分け、片方にそろばん式暗算を 3年間教えた研究(Barner ほか、Child Development、2016)。そろばんの群は計算のテストで対照群(ふつうの補習)を上回った。効果は空間のワーキングメモリが高い子で大きく、弱い子は基本の段階にとどまった。
- 暗算に使う脳の場所がちがう(脳画像)。熟達者が暗算するときは、両側の前頭葉・頭頂葉(視空間をあつかう場所)が働き、ふつうの人が使う言葉の領域はあまり使われない(Hanakawa ほか、NeuroImage、2003)。「珠の像を頭の中で動かしている」ことの裏づけ。
- 数字の記憶が伸びる。珠算式暗算の名人は、数字の列を覚える力がふつうの人の約2倍。ただし文字の列ではふつうの人と変わらない(Hatano と Osawa、Cognition、1983)。つまり伸びるのは「数を珠の形で覚える力」で、記憶力全体ではない。
- まとめの論文。 2020年の総説(Wang、Frontiers in Neuroscience)は、そろばん訓練が計算・ワーキングメモリ・実行機能を高める可能性があり、前頭・頭頂の神経の変化をともなうとまとめている。
研究で言えないこと
- IQ や学校の成績全体が上がるとは言い切れない。効果がはっきり出るのは計算と数の記憶で、国語や理科への波及は証拠が弱い。
- 「右脳が育つ」は単純化。画像研究で働くのは左右両側の頭頂葉・前頭葉。
- 短期間で出るわけではない。上の無作為比較試験は 3年間。珠の像ができる前にやめると、計算の速さは残らない。
教室と家で見える実感
親と先生がよく言う変化は 3つ。①計算が速く正確になり、算数の宿題にかかる時間が減る。②数字を怖がらなくなる(3けた・4けたを見ても止まらない)。③座って集中する時間が、入門のころの 5〜10分から 20〜30分に伸びる。③は研究の裏づけが弱いが、教室ではほぼ共通して聞く。
効果が出る条件
効果は「珠の像」ができてから出る。そこまでに週1回の教室だけだと 1〜2年、家で毎日 10分足すと半年〜1年が目安。研究でも、効果が出た群は 3年間続けた群だった。続けるために大事なのは、まちがい方が見えて直せること(親が教えなくてよい)と、級が細かく刻まれていること。そろばんキングダムのようにまちがえた珠の動きを図で見せる道具は、家で続けるときの助けになる。
良いそろばん学習の条件は「級の段階が細かい」「まちがい方が見える」「毎日短く続く」の 3つ。効果はその先にある。
よくある質問
何年続けると効果が出ますか?
計算の速さは半年〜1年で親が気づく。暗算(珠の像)は 1〜2年。研究で効果が確かめられたのは 3年間続けた群。
電卓がある時代に意味はありますか?
計算を速くするためだけなら意味は薄い。残るのは「数を形であつかう力」と「数字を怖がらないこと」。算数のつまずきの多くは計算で止まることから始まるので、そこを取り除く効果はある。
算数が苦手な子にも効きますか?
効く。ただし研究では、空間のワーキングメモリが弱い子は進みがゆっくりだった。級を細かく刻み、まちがい方を見ながら進めれば、時間はかかっても基本の暗算までは届く。
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